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飲み手を幸せに、作り手を豊かに。 リクルートを退社しコーヒーショップを立ち上げた27歳の バリスタが描く、「文化」を変えるシナリオ

三田枝見
2018/03/01

プロフィール

川野優馬(かわの・ゆうま)

1990年東京都生まれ。慶應義塾大学在学中に「LIGHT UP COFFEE」を創業し、卒業後にリクルートホールディングスに就職。退職後は、経営者・バリスタとして「LIGHT UP COFFEE」に専従。

コーヒーの「味」が好きではなかった

ーー学生時代はコーヒーショップでアルバイトをしていたと伺いました。

そうですね。もともとは普通にアルバイトをしていました。でもそのときはコーヒーが好きだったわけではなく、むしろ「苦っ」って思いながら飲んでいました。

ただ、大学生でバイトはしたかったので、何をやるか考えたときに、カフェは働き心地が良さそうだなと思って、大学1年生のときにはじめました。

カフェもチェーン店だったので、コーヒーをつくるといっても、美味しく作るというよりは、「次々と来る膨大なオーダー量の中でいかに早く捌くか」みたいな方を面白いと思いながらやっていました。

ーー初めは「いかに多く捌けるか」というところに面白みを感じていたんですね。

そうですね。でもその中で、ラテアートにハマって練習するようになって、大会で優勝したのが転機になりました。

大会で優勝してから、色々なお店を回って色々なコーヒーを飲むようになったのですが、その中で、「このお店は美味しいな」「このお店はあまり美味しくないな」「ラテアートは綺麗でも、コーヒーは美味しくないな」など、色々と感じるようになりました。

たくさん回っているうちに、衝撃的な出会いがあって。1つは「オニバスコーヒー」という、自由が丘にあるお店、もう1つは「フグレン」という渋谷のお店です。

その頃はまだ両方共出来たばかりのお店だったのですが、そこで飲んだコーヒーが衝撃的で。

ーーどのように衝撃を受けたのですか?

まったく苦くなくてフルーティだったんですよね。

それまで、コーヒーは苦いものだと思っていたのですが、本当に「フルーツを絞って入れたのではないか」というようなコーヒーがでてきて。

苦くて飲めないと思っていたので、すごく驚きました。

話を聞いてみると、コーヒーはもともと赤いフルーツのタネからできていて、作り方で味も変わること、そして焙煎で焦がすから苦いだけで、焦がさなかったら苦くないことを知りました。

その話を聞いて面白いと思ってからですかね、熱狂し始めてきたのは。

まずはこの味を自分でつくりたいと思って、焙煎機を買いました。

ただ、自分のお金で買えるような金額ではなかったので、銀行に行って、「焙煎機を買ったら、どのくらいコーヒーを売ってどのくらいの収益を得ます」という事業計画書のを作ってお金を貸してもらって。

今のお店のものよりも一回り小さいものでしたが、家の中で食卓においてコーヒーを焙煎していましたね(笑)

また、先ほど話したフグレンの1号店がノルウェーにあるのですが、こういった果実のようなコーヒーは北欧やノルウェーの方にはたくさんあると聞き、コーヒーを飲むために2ヶ月、北欧とヨーロッパに行きました。

現地のコーヒーやさんや農園にアポをとって、「こんなことをやっているのですが話を聞かせてください」という、今考えるとすごく厚かましいメールを送っていました(笑)

でも予想外に農園の方から反応があり、送りすぎたぶん返事も莫大に返ってきてしまって、毎日コーヒー農園に行って1日に10杯以上飲むような日もありました。

僕の中ではそこで味覚は鍛えられたと思っていて、日本に戻ってきて味もわかるようになりましたし、自分が目指すコーヒーもわかるようになりました。

地球の裏側にいる人たちの生活を、ビジネスで豊かに

ーー「早く多く捌く」ことから、「味にこだわった一杯のコーヒー」へと求めるものが変化しているように思えます。

そうですね。これは、お店をやるにあたって、コーヒーの生産を含めて作る人から飲む人までの仕組みをよくしたいという想いからです。

もともとお店を作るときに「いいな」と思っていたのは、コーヒーって、僕たちとは別に作っている人がいるということなんですよ。農家さんですね。

ここに並んでいる国だったら、エチオピア、コスタリカ、ケニア…本当に地球の裏側レベルに遠い国もありますが、そこで人が暮らしてて、家があって、そこの人たちが生活していて、その中で手でコーヒーを摘んで作っているんです。

洗ったり乾かしたり、その場での生産があって、その人の生活が、そこにかかっていて。

でも実際、農園によっては作れば作るほど損をしてしまっているぐらい、裕福なコーヒー農家さんは少なくて、子どもが学校に行けないような貧しい家庭が多いんです。

それはなぜかというと、「とにかく何トン作ってくれればこれだけの額で買います」と、生活してできる最低限の額で買い取って高く売る、というようなビジネスをやっている会社が多いからなんです。

僕は、もともとお店を立ち上げたい、商売をしたいというのはあったのですが、自分が儲けたぶん誰かが悲しむとか、そういうビジネスはあまり好きじゃありません。

どうせだったら、関わる人全員が幸せになるビジネスをしたかった。

その点で、質にフォーカスすれば、生産者がおいしく作った分だけ高く売れて、余剰分は農家にとってプラスになる訳じゃないですか。

それをやるためには、何か理由があって高くなっているんですよという指標を示さなくてはなりません。それが「質」なんです。

コーヒーの文化を巡る、「量の経済」と「質の経済」の相関性

とは言っても、量を捨てて質に移行するのではありません。

これは量と質の関係だと思っています。量と質って、一見相反するもののように思えますが、そうじゃないと思うんですよね。

「質」の中に「量」があるイメージです。質の経済のなかで量の経済が回り、ある「質」のなかで、その「量」がどんどん増えていったときに、次の「質」に移る、というようなものだと思います。

それはコーヒーでも同じです。

インスタントコーヒーからコーヒーの文化が始まったとすると、インスタントコーヒーを飲む人が増えなければ、スターバックスは生まれなかったと思うし、スターバックスで飲む人が増えなければ、外でコーヒーを飲む文化は生まれなかったと思います。

もし外でコーヒーを飲む文化がなければ、今流行っているブルーボトルみたいな文化も生まれてこなかったと思います。

つまり、単に量の経済から質の経済にパッとうつるのではなくて、段階的なところはあると思っていて。

なので、質×量の、両方が大事なのかな、と思っています。

今このお店では質にフォーカスを当てています。

こういった形で、質を楽しむような文化が量的に増えれば増えるほど、そのぶん農家さんに回っていって、農家はまた作って…という感じで。

どんどん量が増えながら回っていって、どこかでまた次の質に移っていくと思っています。

吉祥寺から始まった、コーヒーを「伝える」という仕事

ーーそんな想いを持って経営している、LIGHT UP COFFEE。どのようなコンセプトのお店なのでしょうか。

コーヒーを「伝える」というのが一番のコンセプトです。

飲んでいただいてわかるように、僕らのコーヒーって、いわゆるコンビニとかにあるようなコーヒーのイメージとはちょっと違うので、豆が違うと味が違うというのも、「知ってもらいたい」。

吉祥寺だと、3種類飲み比べできるセットを看板にしているのですが、きたら飲み比べていただいて、「好きな味もあれば嫌いな味もあるものだ」というのを感じてもらいたいですね。

あとは、カフェではなく「コーヒーを楽しむ場所」にしたいという思いはありました。

カフェだと、どうしても時間を潰すとか、「コーヒーではないこと」を目的にして楽しむ感じもあるじゃないですか。

それでもいいのですが、せっかく僕たちのお店に来てもらうからにはコーヒーと向き合えるような空間にしたくて、内装もなるべくシンプルに、テーブルもわざとパソコンを置けないぐらい細くしています。

ーーお店をオープンして4年が経過していますが、実際にお店をやっていて川野さんが個人として「よかったな」と思うのはどんな瞬間ですか?

難しい質問ですね。

でもそれでいうと、現時点ではやっぱり自分たちが作ったものが評価されたときですかね。

もちろん、きてくださるお客様が「美味しい」っていってくださることも嬉しいですし、特にコーヒーって、リアクションのスピードが早いのが一つの特徴だと思います。

例えばITのサービスだったら、いくらユーザー目線といいながらも、直接ユーザーの顔を見ることはできません。

なので、本当にお客さんが喜んでくれているのかはわからなくて、数字を見て推測するしかないんですよね。

あとは実際に、「誰が」喜んでいるのかがわからない部分はどうしてもあると思います。

それが、コーヒーだと、目の前の人のために作って、その人がすぐに「美味しい」とリアクションをしてくれる。

そのリアクションのフィードバックのスピードは、他の業界に比べても早くて、やりがいのあるポイントかなと思うので、喜びを感じる瞬間であったりはします。

もう少し広く見ると、お店があること自体で喜んでくれる何かがあったり、認めてくれる何かがあったり、そういうことがあると嬉しいですね。

今のところはそうですが、それは一つのポイントでしかなくて。

先ほども言ったように、やりたいのは、コーヒーの生産を含めて作る人から飲み人までの仕組みを、ガラッとよくすることです。

生産者も作ったぶんだけ儲かるし、飲む人も色々なコーヒーがあることを知る。ワインみたいなものだということを知ってもらえるといいですかね。

ーーワインですか。

ワインだったら、コンビニで1,000円のものも買えるし、好きな人はワイン専門店で色々な国のものが置いてあるところにいって買えばいい。

ワインはブドウからできていることを知っていますよね。

コンビニのものはもしかしたら渋いかもしれないけれど、5,000円のものは甘くてフルーティーで、10,000円のものもある、ということを知っています。その状態をコーヒーで作ることが理想です。

コーヒーは、赤いチェリーのタネから作っていて、フルーツの味がして、作り手によって味が違うコーヒーもあるし、その違いがわからないように、苦味を加えているコーヒーもある。そのことをみんなが知って、選べる状態。

「選びたければ選べるし、選びたくなければ選ばない。それでも豊か」という状態になれば、結局は質にフォーカスして飲む人も増えますし、農家さんも質にこだわって作ることが増えていきます。

そこにまた新しい「質の経済」が生まれて、農家さんはもっと豊かに、飲む人はもっと選択肢が増えて、ということが実現できたら一番「やっててよかった」と思うのかもしれないですね。

今はまだコーヒーの文化が変わったという実感はないのですが、そういうことをもう少し大きく広げられたらいいなと思います。

ーー素敵なお話、ありがとうございました!

店舗紹介

・LIGHT UP COFFEE

〒180-0004 東京都武蔵野市吉祥寺本町4-13-15

・LIGHT UP COFFEE Shimokitazawa

〒155-0033 東京都世田谷区代田2-29-12

・LIGHT UP COFFEE 京都店

〒602-0822 京都府京都市上京区青龍町252

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