「自分で選択肢を見つけ、自分の力で生きていけ」 2度のイグジット経験を持つ起業家・一岡 亮大 氏 が “リアルな体験”を通して大学生に伝えたい事とは?
プロフィール
一岡 亮大 氏
2010年三井住友銀行入行。2011年株式会社MUGENUPを創業代表取締役社長に就任。
ゲームアセット制作のクラウドソーシングサービスを中心に4年間で150名程の企業まで成長させる「Job Creation 2014」にて1位を獲得。2015年MUGENUP社の自己株式を売却後、同社退任。 2015年アンドディー株式会社を設立代表取締役社長就任。
会社を経営しながらHiveShibuyaでアプリを製作?
ーー現在、一岡さんはここHiveShiuyaでインターンの学生さんと一緒にアプリを作成していると伺いました。きっかけはなんだったのでしょうか。
一岡:僕は早稲田大学のある講義で講師をしているのですが、その中で受講生だった井上くんが「起業に興味がある」というので、じゃあ卒業するまでの4か月間、一緒に出来ることをやろう、ということになったんです。
学生さんの何名かとお話しさせていただくなかで彼と一緒にやろうと思ったのは、彼が最も「手を動かせる」人だと思ったからです。
世の中には手が動く人と動かない人がいます。これは労働という意味ではありません。
サービスを作る上で、この「手を動かす」ということはすごく重要な要素です。
ーー手を動かせる人と動かせない人の違いは何なのでしょうか。
「素直に取り組めるどうか」ではないでしょうか。
ーー 一岡さんは2度のイグジットを経験し(2015年、株式会社MUGENUPを売却したのち、同年 株式会社アンドディー(旧商号 クラシテク)を設立)、現在も会社を経営していらっしゃいますよね。時間を縫って井上さんと一緒にアプリを作成しようと思ったのは何故ですか?
一岡:僕、起業家が好きなんですよね。
会社を経営したり、イグジットを経験したりする中で、色々な起業家の方と意見を交わす機会があったのですが、考え方が非常に近いですし、みなさんすごく優秀です。
そのような人が増えた方が世の中はよくなるに決まっているので、それを増やしたいな、と。
あとは、人類ベースの話をすると、人は基本、自分よりも若い人が優秀な方が良い。これは圧倒的にそうだと思います。
知識はアセット(資産)の積み重ねのようなものなので、それが下の世代にインストールされたら、より良い社会を作ることができますよね。
下の人間が優秀になっていけばいくほど、僕が年を重ねたときに、生活もどんどん楽になっていきますし、長い目で見ると投資みたいな感じです(笑)
そして起業をするには、座学の勉強ではなく、プログラミング言語を選んだり、プロジェクトマネジメント方法を学ぶなどのリアリティーが重要です。
僕自身、今は少し余力があるので、学生の何かのきかっけになれば良いなと思い、このような機会を提供しています。
ーーなるほど。そして現在、実際にプロダクトを作っているのですね。
一岡:本来は事業選定から一緒にやるのがいいのですが、時間も時間なので世の中に出すというところまでは一緒にやってみようということでスタートしました。
なので、僕がチョイスしたテーマの中から1つ決めてもらい、ディスカッションを重ねてプロダクトをつくってきました。
“リアルな体験”を通して学んだこととは?
ーーどのようなサービスにしたのですか?
井上:仮想通貨の予測投票アプリです。途中まで色々やっていたのですが、最終的に今回のテーマになりました。
一岡:通貨の値が上がるか下がるかをみんなで投票して、当たったらビットコインが貰える予測アプリですね。
ーー具体的にはどのように進めていったのでしょうか。
井上:3か月間作りながら、週に一度、一岡さんと打ち合わせをしてきました。
一岡:打ち合わせは質問されたことに対して答えるという感じです。
例えば、ウェブアプリケーションの技術面において質問された場合は、すぐに答えを教えてあげるのではなく、「ここを調べれば分かるよ」というふうにアドバイスしていました。
ーー『調べ方を教える』ということでしょうか?
一岡:調べ方を教えるというのは少し違うかもしれません。
例えば、材料が足りない時にその材料を渡してあげるのではなくて、「その材料はこうしたら作れるよ」と言ってあげる感じに近いです。
井上:確かに近いですね。
最初一岡さんに声をかけていただいた時、僕はウェブプログラミングのスキルがありませんでした。
実際に出来るか分からなかったので、一岡さんに「大丈夫でしょうか?」と聞いたら「出来るでしょう」と言われて。
実際に調べながら進めていたら出来ました。
ウェブプログラミングをマスターしたわけではありませんが、「カタチにする」ことができたのは良かったですね。
新しいモノを作る時に大切なのは“腹落ちや納得感”
一岡:今回は卒業までの4ヶ月という短い期間だったので、プロダクトを作ることで精一杯になってしまいましたが、本当は事業をつくる時の最初の3か月は、話し合いをした方が良いと思っています。
コンセプトをどのように作って、どのように人に広めるかというのを考えて“腹落ち”させるのは重要ですね。
10年の歳月をかけてコンセプトを考えることもあると思っていて。
例えば楽天も一発で生まれたわけではないですし、メルカリも色々な経験の中で生まれたわけですよね。
彼らには事業を始めようと思った際の腹落ちや納得感があったと思うのですが、それを得るためには長い月日や経験が必要になってくると思います。
事業をつくっていくという意味では、実際には3か月間くらいは色々と出し合って進めていかないとキツイかもしれないですね。
ーーその中で今回はプロダクトを実際につくる部分の経験を積んでいくということですね。なぜ仮想通貨に決めたのでしょうか。
一岡:みんながまだ仮想通貨のことをよく分かっていないですし、何が出来るのかが分からないからです。
それは、「チャンスがある」ということではないでしょうか。
例えば、作家でも同じようなテーマで書いたとしたら、読者は前に同じようなものを見たと感じてしまうので売れませんよね。
それと同じで、サービスも新しいものをクリエイトしなければいけません。それをつくるためには「何をやるか」がとても重要です。
既に存在しているコンセプトには変化を付け加えなければいけませんが、仮想通貨のような新しい市場であれば、その市場自体を世の中にフィット出来る形にすることが仕事になります。
起業家として、新しい事業をつくれるタイプの人もいれば、既にあるものを最適化できるタイプの人もいます。どちらなのかは結構分かれると思います。
「広い視野と多くの選択肢を持って生きる」ということ
ーー井上さんは一岡さんと一緒に活動してみて、心境の変化はありましたか?
井上:ありますね。
もともと僕は大学でロボットの研究をしていたこともあり、モノをつくることに興味があったので、就活でもロボットの研究が出来る企業を探していました。
でも、就活が終わった後に「僕はずっと技術を学んできたけれど、ビジネスとして新しいものをつくることを全く勉強してこなかった」と思い、起業について学べる講義を履修したんです。
そして、起業家の方の意見を聞いていく中で、それぞれの得意分野や事業をやる目的や考え方が違うこと、人によって大事にしていることは違うということがわかりました。
ーーそれは一岡さんと一緒に活動していく中で変わっていったのですか?
井上:そうですね。
先程もお話したように僕はずっとロボットの研究をしていましたが、一岡さんに「他にも面白いものがあるよ」と言われて、実際に調べて色々勉強したんです。
例えば、僕はITの分野に取り組んだことが無かったのですが、一岡さんに出会って色々とお話を聞いているうちに「自分はロボット以外の分野も好きなんだ」ということに気が付きました。
一岡:視野が広くなるのは良いことですね。
視野を広げるために大切なのは、“与えられた選択肢の中から選ぶ”のではなく、“選択肢を自分で見つける”ということです。
選択肢は自分で調べれば広げられるので、「選んだ選択肢が良いのか悪いのか」というのは、学生と一緒にディスカッションして判断していきます。
僕はそのディスカッションで、今までの経験をもとに「僕だったらこのようなアプローチで、このように考える」ということを伝えます。
そうすることで「そのような考え方もあるのか」とまた視野が広がり、選択するオプションが増えるのではないでしょうか。
井上:とても分かります。
僕は修士2年なので、友達はみんな就職するのですが、「会社に入ってつまらなかったらどうしよう」「これでいいのかな」という話を良く聞きます。
ですが、僕はそれを聞いて「もし仮にそうなったら辞めればいいのに」と思うようになりました。
色々な方と会って話して、「このような生き方もあるんだな」ということを知ったから生まれた変化だと思います。
なので、選択肢を広げるというのはすごく大事なことだと感じています。
一岡:そうですね。
あとは、究極の選択肢の選び方として、人生が楽になる方法は1つしかなくて、「稼げるようになる」しかないんですよね。
自分一人でお金が稼げるようになれば不安じゃなくなりますよね。
それを最初に身につければ、あとは色々な選択肢を選びたい放題なのですが、みんな"何かができれば稼げるようになる"と思っているんですよ。
でもそれは逆で、「稼ぐためにはどうすれば良いかを考えて選ぶ」というプロセスがすごく大事なんですよね。
テクニックだけだとニーズがなくなった瞬間にいらないものになってしまいますから。
例えば、機械が全てのライティング作業を行えるようになったら、ライターはいらなくなってしまうわけですよね。
そうするとライティングでお金を稼いでいる人は、「仕事が無くなったらどうしよう」と絶望するんですよ。
そうではなくて「稼ぐためになぜライターという仕事を選んだか」というところがとても重要で、それを忘れているから不安になるのだろうと思います。
そこで選んだ考え方を他に当てはめればたくさん選択肢が見えてくると思いますし、それが"稼ぐ力"なんですよね。
井上:僕も実際に、一岡さんから受注案件を紹介してもらえたり、少しずつですが“稼ぐ力”が付いてきているように感じます。
このようなことを体験して、サービス作りとは別に「一人で生きていく力」を学べているのは、僕にとってすごく大きいですね。
ーー素敵なお話、ありがとうございました!