「自分の信じる“隠れた真実”を突き詰めた」 Progate CTO村井氏・リードデザイナー神田氏インタビュー
プロフィール
村井 謙太 氏
株式会社Progate最高技術責任者。現在は東京大学工学部社会基盤学科専攻休学中。大学時代に起業に興味を持つも、プログラミングができなかったため、何も形に出来ずにいた。そして、プログラミングの勉強をするも挫折。
しかし、在学中にエンジニアを集めるために東大プログラミングサークルをたちあげる。当時はプログラミングができなかったが、受託の案件を受けたことにより、プログラミングの勉強を本格的に始め、プロダクトを作る力を身につけた。
神田 美智 氏
株式会社ProgateでUI/UXデザインを担当。高校・大学時代をアメリカとイギリスで過ごす。学生時代は映画理論と映像制作に明け暮れていたが、学部2年次の終わり、社会問題を解決する手段としてのデザインに魅力を感じ、独学で学び始める。
ユーザーに夢中で楽しんでもらえるようなサービス設計、学びによって人生を豊かにできるようなサービスを目指し、日々プロダクト改善に取り組んでいる。
お互いに惚れ込んだ“才能”と”人柄”
ーー早速ですが、村井さんと神田さんの出会いのきっかけから教えてください。
村井:神田とは、実は起業する前から知り合いでした。
とあるIT企業のパネルディスカッションのイベント後に懇親会があり、周りは就活モードで来ているのに僕と友達だけ好き勝手にやっていたら、声をかけられたんですよね(笑)
神田は既にデザイナーとして他社でインターンをしていたので、その話をして盛り上がったのをよく覚えています。
――神田さんはなぜ村井くんたちに声かけようと思ったんですか?
神田:村井とその友達だけお酒で顔を真っ赤にしていて、、、「あの人たち面白いな〜」と思ったからです(笑)
村井:若さゆえの勢いですね(笑)そこから仲良くしていましたね。
僕自身、Progateをやる前から起業したいという思いはあって、最初は家庭教師のサービスをやろうとしていたんですよ。
そのサイトを作成する時に神田にデザインをお願いしたことがあったんですけど、そのとき返ってきたアウトプットのクオリティがものすごく高くて、本当に優秀な人だなと思いました。
彼女から他の話を聞いているうちにも、意識の高さや賢さ、勉強家であるところも含め、今まで出会ったことのないタイプの女性だったので完全に惚れ込んでしまいました。
なので、自分がゆくゆく起業するときは、絶対に神田を誘おうと決めていました。
神田:その後も、村井の知人がある旅行会社を立ち上げたときに、一緒にお手伝いとかもしましたね。
村井:一応僕も神田もそこでしばらくやっていたのですが、当時僕はエンジニアではなかったので全然できることがなくて。
起業したいとは言っていたものの、自分でプログラミングをできるわけではありませんでした。でもサービスの立ち上げ当初って、自分で手を動かすことができなかったらほとんどやることがないんですよね。
そうやって僕は空回りしている状況だったのですが、神田はデザイナーとしてすごくしっかりアウトプットをだしていて。
そこで自分でできることを増やさなければいけないと思って、そのスタートアップは離れて違う会社でインターンをするようになりました。
神田:でも、村井が離れてからも友達としてはずっと仲良くしていて。
村井:そのあと加藤(=Progate CEO・加藤 將倫氏)と出会って、起業することになりました。
最初、僕と加藤が受託で仕事をしていたのですが、その時も神田にデザインをお願いして。その時も本当にいいものができて「こいつは本物だ」と思っていました。
起業を決めて1ヶ月後ぐらいに、「やっぱり一度見ておきたいよね」と言って訪れたシリコンバレーで偶然神田に再会したんです。
1年越しの思いで、満を辞して「一緒に起業しよう」と誘いました。
――なるほど。神田さんはその時は何か別の事をしていたのですか?
神田:他のサービスを手伝ったり、デザインコンサルなどをしたりしていました。
休学して自分の働きたい会社や仕事を見極めようと考えていたので、そのときは色々なところで働いていましたね。
村井:そこで、うちの会社に来てほしいとお願いしたら…
神田:それは無理。とお断りしました(笑)
村井:でも、そのときは諦めて泣く泣く帰ったのですが、そのあと彼女の方から連絡をくれて、一緒に働いてくれることになったんです。
――一度お断りされていたんですね。それはどのような心境の変化があったのですか?
神田:うーん、うまく説明できないのですが、2人の人柄に魅力を感じていました。
ーー何が魅力だったのですか?
神田:2人の素直なところがよかったです。
学生起業家で、遊び半分で事業をやっているような方達も見てきたのですが、その一方で彼らは本気で事業をしていこうとしているのが伝わってきました。
それに、自分で思った疑問点を伝えると、次の日にはちゃんと変わっていて、一緒に仕事をしていて楽しいと思えたんですよね。
もちろん不安はありましたが、人柄にすごく信頼感を持てました。
“大きな”ブレイクスルーのチャンスを探る日々
――そこから、Webサービスを順調に伸ばしていって、今回アプリをリリースされましたよね。アプリリリースのきっかけは何だったのでしょうか?
村井:きっかけらしいきっかけはありませんが、創業してから割とすぐにイメージはしていました。
プログラミング学習の市場規模は決して大きいとは言えませんが、起業家である以上、やはり夢を大きく持っていたいと考えています。
でも、Progateをここまでやってきて思ったのは、事業は本当に地道で大変だということです。「1年で100万ユーザー目指そう」と言って始めたのに、結果2万人とかで。「全然無理だ」みたいな感じでした。
日々やっていることも本当に地道で、みんなであーでもないこーでもないと言いながらコンテンツを作成して。派手な起業家生活とはかけ離れたものでした。
そうしてコンテンツを毎日積み上げ一歩ずつ進んでいきながらも、自分としてはもっとブレイクスルーを起こせないかと悶々しているところはあって。
それを考える中で漠然とアプリに惹かれていた部分はありました。
それこそ、加藤や南部(=Progate COO・南部旭彦)と、週に1度は役員陣3人でMTGをするのですが、そこでアプリの構想を話したりもしていました。
でも当時はリソースも足りず、「今それをやったらWebの方も追いつかないし、厳しいよね」と諦めている部分だったんです。
ですが、僕の中ではずっとモックのようなものは考えていました。
当時は他のプログラミングサービスも一応アプリを出してはいたのですが、4択クイズのような形式のゲームのようなものしかありませんでした。
しかしそういったものではなく、Webと同等のレベルで学習出来るものを、と考えていて。
それで自分の中で、なんとなく「これだったらいけるんじゃないかな」というものは用意していました。
自分の信じる「隠れた真実」を突き詰めた。
――プログラミングは普通パソコンでやるもの、と考えられていますが、「モバイルでプログラミング」というアイディアについて周囲の反応はいかがでしたか?
村井:正直、評価はあまりよくありませんでした。
加藤や南部に聞いても、「うーん……」みたいな反応でしたし(笑)、友達からも、「需要ないんじゃない?」と言われて、アイディアベースの段階では評判はあまり良くありませんでした。
でも、僕の中では「逆にいけるんじゃないか」という実感があって。
ピーター・ティール(=PayPalの創業者)じゃないですけど、自分の頭の中には「絶対これはいける」という直感がずっとありました。
転機になったのは2017年6月の役員合宿です。
合宿の際に会社の長期ビジョンを考えていたのですが、「今のままでは10年後には忘れられてしまう。Progateをもっと大きな会社にしていこう」という話をしました。
そこに向けては「海外」という思いもずっとありました。
それを考えた時に今のProgateは、クオリティには絶対的な自信があるのですが、プロダクト自体にインパクトがあるものではないと思っていて。
何かしらのブレイクスルーを起こしていくと考えた時に、「今だったらパソコンがないとできないことをスマホでできるようになったらそれってすごいことだよな」と思いました。
世界的に見ても可能性があると思ったので、その時にごり押しして、加藤に「やっぱりアプリだよ!」という話しをしたんです。
その時は人も増えて、割と開発リソースも揃ってきていたので、「とりあえず一旦やってみよう」ということになりました。
それで2017年6月に意思決定をして、アプリ制作にとりかかることにしました。
ーー最初は神田さんとお2人でやっていたという感じだったのですか?
村井:いえ、最初は僕1人でやってました。
それまで僕はコンテンツやWebの機能などに関して意見するプロダクトマネージャー的な役割をしていたんですよ。
でもそこで思い切って、「完全に1人のチーム、1人のプレーヤーでプロトタイプから作らせてくれ」とわがままをいって。
あの時は結構思い切った決断をしたと思います。
そこから、1人で1〜2ヶ月プロトタイプを作っていました。
僕はデザインしてもらうなら絶対に神田が良かったので、その後神田にお願いしてチームに入ってもらって、途中から神田と僕の2人チームになりました。
アプリ成功へ向けた「2つの仮説」
ーー現場としては、どのような感じだったのでしょうか。
村井:そうですね。全部初めてでした。僕もアプリ開発は全くしたことなかったので。
神田:私は別のスタートアップでアプリは作ったことがあったのですが、React Nativeは初めてだったので、結局みんな初心者でした。
村井:でもそこでプロトタイプを作っていくことで、自分の中ではある程度見えてきてはいました。
僕の課題としては2つあって、
①おもちゃのようなものではなく、きちんと学習体験を提供できるものにすること
②できるだけ工数をかけずにアプリをサービスとして伸ばしていくこと
というものがありました。
学習体験としては、きちんとキーボードがあって、でもWebより軽快に進んでいけるようなものとして、パーツを自分で組み立てながら進める方法を採用しました。
このアイディアは最初からあって、4択クイズの形式だと学習にならないし、逆にキーボードで1つ1つ打つのは骨が折れると思ったので、その間のうまい塩梅を探してこの形になりました。
工数に関しては、アプリを作っていくにあたって、0から作る必要がないように、できるだけWebのフォーマットをそのまま、ほとんどコストをかけずにアプリに持っていけることを意識しました。
その2つが僕の中の仮説で、そこが満たせればいけるだろうし、どちらか1つでもかけていたら無理だろうと思っていました。
それが「いけるな」という感じになってきたのが8〜9月ぐらいの段階で、10月から開発人数を増やして、本格的に総力戦でやっていきました。
「信頼」が思い切った決断に繋がる
――「一度断ってからの入社」「隠れた真実の追求」「1人チーム」など、不安になるようなことばかりに思うのですが...
神田:私の場合ですが、創業初期のまだ信頼関係も成り立っていないときに、自分の不安をすごく真摯に聞いてくれて、さらにきちんと行動で示してくれたことから、自分の事を一従業員ではなく、「仲間」として思ってくれているんだなと思いました。
そこから2人を信頼出来るようになりました。
――なるほど。対等な関係であって、ポジションに関わらず常にフラットということですね。
神田:そうですね。あとは偉そうになってしまうかもしれないんですけど、彼ら自身の成長を近くでみていて。最初は地に足ついてない感じでしたが(笑)、今は成長しているなと思えるので、そこも良いですね。
村井:僕は、神田に関しては最初から信頼していました。彼女と一緒に作って満足いかなかったことはないので。
僕自身さっきも言ったと思いますが、アプリを作るなら絶対彼女と組みたいと考えていましたし。
今回も、彼女自身がプロジェクトの回し方などを勉強していて、ビジョン策定やユーザーストーリーマッピング(※Jeff Patton氏が開発したもので、製品の設計・ユーザーワークフロー・リリース計画などを同時に見える化する手法)など、一番共有意識を持ってくれていました。
そこも含めてうまく引き出してくれたなと思っています。
加藤は付き合いが長いので、僕自身の良い面も悪い面も分かってくれていて、プロダクトを作るときも信頼してくれています。なので、そんなに不安なく任せてもらえたのではないかと思います。
逆に、「こいつに任せて大丈夫かな?」と思われていたらこんなに思い切って進むことはできないです。
「マサからは信頼がある」というのをわかっていたので、安心して進めることができました。
今回は自分自身でもわがままを言っている自覚があって、なんとしても結果で示したいと考えていたのですが、上手く形になって安心しました。
ーーアプリを実際にリリースしてからの反響はどうでしたか?
村井:まだリリースから1か月経っていませんが(取材時)、反響はいいですね。
僕もリリースまでは本当に怖かったのですが、Twitterでエゴサして反応を見ていても、本当に評判が良かったです。
なによりもユーザーさんにいいと思っていただくことがすべてなので、ファーストインプレッションとしての反応が良くて嬉しかったですね。
神田:恐る恐るリリースしましたが、予想より反応が良くて驚きました。似たようなアプリも全然ないので比べようがなかったというのもあるんですけど。
ーー他のサービスとも全然違う、という印象でした。
村井:そうですね。海外のサービスを見ても似たようなものはないので、ベンチマークしたという感じで「オンリーワン感」がありますね。
世界中の人の人生を180°変える体験を、Progateで
――最後に、メッセージをお願いします。
神田:アプリになったことによって、プログラミングのハードルはとても下がったと思います。
特に途上国においては、ほとんどがモバイルファースト世界です。さらに、自分で何かを学習して道を切り拓いていかないと自己実現ができません。
しかし、そこにプログラミングを届けられれば、人生を180度変えられる可能性があると思っています。
村井と加藤がプログラミングと出会って人生が変わったという原体験以上の素晴らしい体験が生まれていくのではないかと思っているので、すごく楽しみですね。
村井:プログラミングって、基本的には中学生レベルの論理的思考があれば、取り組める内容になっています。
起業がどんどん若年化していく中で、プログラミングもこれからますます若年化が進んでいくことが予想されます。
このアプリは若い人たちに対して入り口を広げていくことで、世の中にバリューをあたえることが出来ると考えていますし、与えたいと常に考えています。
僕としてはこのアプリにロマンを感じていて、スタートアップでこうやって起業しているからには、世の中にちょっとしたプラスアルファのバリューよりも、0から1を生み出していくことをやりたいと思っているんです。
「Progateがなかったらこの世界はなかったよね」みたいになっていくことが理想で、ゆくゆくは電車の中や、中学校の昼休みや、そういったあらゆる時と場所でアプリをしてほしいし、そういう世界にしていきたいと思っています。
これから先、Progateを利用してプログラミング学習をした人が何か世の中に価値のあるサービスを生み出してくれたら嬉しいです。
ーー素敵なお話、ありがとうございました!