PEOPLE

「父親の顔もわからない。」そんな自分だからこそ、 何気ない日常も大切にできるサービスを。 FOWD・久保田氏が"チャットフィクション"で実現する世界

三田枝見
2018/01/25

プロフィール

久保田涼矢(くぼた・りょうや)1995年愛知県名古屋市生まれ。中学校在学時よりHPの制作を行う。高校卒業後、数社のインターンを経験した後、ベンチャー企業に入社。SEOや広告運用などWEBマーケティング全般におけるコンサルティング業務に従事。2015年、株式会社コロプラに転職。子会社のコロプラネクストを中心に、国内外のシード〜シリーズBステージの企業を対象に投資を実行。インキュベーションオフィスの運営など投資後のサポート業務にも従事。2017年、株式会社FOWDを創業。

エンタメサービスをつくる理由

ーー久保田さんは『Balloon』というチャットストーリーアプリを運営していますが、エンタメのサービスを作っているのには何か理由があるのですか?

僕は高校を卒業してから働いていて、今の会社を立ち上げる前に2社経験しています。

1社目ではtoB(対企業)、2社目ではtoC(対カスタマー)の企業でそれぞれ働きました。

自分の"実現したいこと"を叶えるためのアプローチとして、どっちがいいかなと考えた時、toC向けのサービスをやるのが自分は好きだな、やりたいなと思ったんです。

また、これは今日明日の変化ではなく、将来的に必ず実現することだと思っているのですが、エンターテイメントコンテンツは、「内容も個人に最適化する」と思っています。

今は、既に完成されている作品を個人にレコメンドすることしかできませんが、ユーザー個人がよく使う言葉や好みに合わせて、内容もレコメンドすることができれば今よりさらに面白いものがつくれると思っています。

VRでは、例えば主人公が飲んでいる飲料を変えたり、衣服を好きなブランドにしてECの導線をつくったりと1プロダクトの内容をレコメンドすることは”当たり前”になりつつあります。

そういった未来が当たり前になってくると、時代や世代を超えてコンテンツは消費されるようになります。

自分が歳を重ねたときに、子どもや孫と映画を一緒に観たり、ゲームをしたりしていても、100%それぞれが面白いと思える。そんな未来を実現したいんです。

ーーそうなんですね。今日は、そのようなお考えになった久保田さんのルーツを聞かせていただければと思います。

母の涙を見て、「自分で生きて行かなければ」と思うように。

では、生まれからお話していきますね。

生まれは愛知県の名古屋市です。珍しい話でもないのですが、僕、生みの父親との記憶がないんです。

僕が幼かった頃に家を出て行ってしまったみたいで。

父親は料理人だったのですが、ビジネスや起業とはあまり関係ないです。なので、生まれた時から「働く」ということが身近にあった訳ではありません。

その後、母方に引き取られたのですが、母親も仕事をしなければならず、祖母に育てられました。

通っていた幼稚園がたまたま漢字教育に力を入れていたので、読み書きは幼い時からでき、小さい時は母や叔母が昔読んでいた小説をずっと読んでいました。

小学校に入学する頃に母が再婚するのですが、それまでは仕事であまり一緒にいなかったので、幼少期の自分は母を「たまに来る女の人」くらいに認識していたと思います。

その後、7歳下の弟が生まれて、初めて家族らしい生活をするようになりました。

ーー賑やかになりましたね。

はい。ですが、ここまでの記憶って生まれてから6歳くらいまでなので、大きくなるにつれて忘れていくというか、あまり記憶に残っていませんでした。

でも中学生の時、部屋の掃除していたら古いアルバムを見つけたんです。アルバムの一番最後には、よくあるような家族写真の年賀状が入っていました。

僕の名前も入っていて、どうやら僕の親が送る用に作成したみたいなのですが、知らない名字だったんですよね。

見知らぬ男性と、母と、僕と。今でもあのアルバムを開かなかったらどうなっていたのかなと思うことがあります。

ーーそのときはご両親が再婚だったことは知らなかったんですね。

そうです。それで母親に確認したら、突然泣き出してしまって。それまでは自分で言うのもなんですが、比較的勉強もできて模範的に過ごしていました。

厳しい親だったこともあり、僕自身、親の言うことは全て正しいと思っていました。

でもその瞬間に、「ああ、親って自分が思っているよりも頼りにならない存在なんだ」ということを強く感じたことを覚えています。僕の中で、「両親は正しくない」と感じてしまったんです。

「もっと自立しなければいけないし、もっと自分で考えなければいけない。自分を守れるのは自分だけだ」そう思うようになりました。

ーーなるほど。そうだったんですね。

「高校では絶対に一人暮らしをしよう」と、家から一時間以上かかるような高校を探しました。

愛知県は住んでる区域によって公立高校の受験可能区域が決まるので、遠くに行くために私立だけを。

この頃は全然素直じゃなくて、両親が勧めてくれた高校は片っ端から外していました。

上位の私立高校へ推薦の話もあったのですが、全く聞く耳を持ちませんでした。私立で遠くへ行けても、「親が考えていること」に違和感があったので。

高校で親元を離れ、自力で学費を稼ぐ日々

ーーとはいえ、いくらアルバイトをするとはいえ、高校に入るには金銭的にも親の援助は必要だったのではないですか?

そうですね。入学金と授業料で初めの段階でも150万円くらい必要でした。そのときに初めて、「自分でお金を稼ぐこと」について考え始めました。

中学生だったのでアルバイトで働くという選択肢はなく、それ以外の方法で稼がなければいけませんでした。

そこで最初は株や為替をやったのですが、元手が少なく、なかなか増えていきません。

そうやって色々試す中で、ホームページの受託をやるようになったんです。

当時はコーディングも全くわからなかったので、まだできたばかりだったランサーズさんなどのようなクラウドワーキングサービスを使って、東京のWebデザイナーさんに仕事を発注していました。

僕はその営業やディレクションをやっていました。ディレクションというほど立派なものではなく、クライアントから聞いたことをメモして伝えるだけでしたが。

そうするとだんだん相場や料金の決め方が分かってきて、自分の取り分がなぜ少ないかを考えるようになるんです。「このペースだと目標額が貯まらないぞ」と。

その頃からSEO(webサイトの検索順位をより上位に上げるための手法)やWordPress(サイト制作用のソフトウェア)を勉強しはじめたので、要件定義してワイヤーフレーム(webサイトのデザインの骨組み)を作れるようになっていきました。

できることが増えたことで少しずつ自分の取り分も上げていくことができたんです。

ーーとても中学生とは思えないですね…高校生活はどうでしたか?

結局、実家から電車を乗り継いで1時間半くらいの高校に進学しました。

高校時代の話は記事に書けない話が多いと思うので、どこかで話せたらいいなと思います(笑)。ここでも思ったのが、もちろん全ての人ではないですが、「教師も人で、当然間違えることもある」ということです。

また、僕は生徒会長をやっていたのですが、そのときに「自由と責任」、「権利と義務」について学びました。

どういうことかというと、自由な高校生活を謳歌したいなら責任を伴うことも理解しなければいけませんし、何か既存のルールを変えたい(自身の権利主張)のであれば、義務を果たして信用を積む必要があるということです。

すごくシンプルな話ですが、高校生の時にこれらのことを学ぶことができたのは貴重な経験だったと思っています。

ーー高校を卒業した後は、大学には行かず、働き始めたんですよね。

はい。就職するにしても進学するにしても、東京に行こうと思っていました。

「行くなら東京だろう。もっと広い世界を見たい、もっとたくさんの人と仕事がしたい」と、目的ありきではなく名古屋から出たい一心でしたね。

インターンを何社か経験して就活をして、最終的に拾っていただける会社があり、その後もなんとか仕事をなくすことなくここまで来ることができました。

web制作、コンサル、投資、人事と色々な事業やポジションで働かせていただいて、感謝しかありません。運が良かったな、恵まれたなと思っています。

東京に来てから就職するまでの話もあまり記事にできない内容ですね...(笑)

時代、世代を超えて愛されるコンテンツを創りたい

ーールーツをお聞きしていく中で、エンタメのサービスを運営したいと思うようになった理由なども見えてきました。冒頭で伺った"実現したい世界"についてもう少し詳しく聞かせてください。

「時代・世代を超えて愛されるコンテンツを創る」ためには、コンテンツ内部の個別最適化が必要だという話をしたかと思うのですが、補足して話します。

例えば、Facebookで「この人が1年間でよく使った単語」とかあるじゃないですか。でも、同じ「20代、東京在住、男性」でもその人の身近な言葉や好むものは違ってきます。

幾つか例を出すと...。「懐かしさや故郷」を表現する時にどうしますか?

表現方法は色々ありますが、「方言」も一つのツールです。じゃあどこの方言を使うか。

別の伏線がなければこの時の方言はどこの言葉を使っても影響はありません。ですが、東北の人には東北の方言を、関西の人には関西の方言を使った方がユーザーの関心はグッと強まります。

また、「学校の描写」というテーマでどんな会話をつくりますか?普段仲間内で使っていたり、Twitterでよく見かける言葉を使えたらリアリティが増しますよね。

他にも細かい部分だと、主人公の部屋に貼ってあるアイドルのポスターが自分の好きなアイドルだと何となく嬉しいですよね。

一方で方言も流行りの言葉も分からない人に表示させても何のことか分からないじゃないですか。

大事なのは、「その人にとって身近なものをしっかりと表示させること」です。

先ほどのアイドルのポスターも、シナリオに影響がなければおニャン子クラブでもAKBでも問題はありません。

でもユーザーからすると、20代だとおニャン子クラブはあまり分からないし、逆に少し上の世代だと最近のアイドル事情に詳しい人は少なくなるように違いがあるんですよね。

他にも、小説が映像化すると「ちょっと違う」と言われることが多いと思うのですが、それはなぜでしょうか。

活字の状態だと脳内でイメージする際にビジュアル、声、様々な情報をイメージすると思います。これが映像になり情報がリッチになると、自分のイメージしていた情報との差異を気にするようになります。

ここを最適化して、シナリオの大筋は変えることなくコンテンツを最適化していくことが、時代や世代を超えて愛されるコンテンツを創る上での一要素になると思っています。

ーーそうなんですね。チャットフィクションはその世界を実現するのにどのように活かされるのでしょうか。

チャットフィクションが面白いのは、短いセリフごとに文章が作られていることです。

先ほどの例と同じで、普段使う言葉が「メールする」なのか「チャットする」なのか、それとも「LINEする」「連絡する」「メッセする」なのか。

同じ意味ですが使う人は全く別だと思っています。若い子たちだったらLINEという表現がしっくりくるけれど、サラリーマンだったらメールの方がしっくりくる、みたいな感じです。

Balloonでは、若い女性のユーザーが多いので、公式作品ではあまり「メールする」という表現は使わないように気をつけています。

それをチャットフィクションでは、先ほどの単語やセリフを細かい単位で入れ換えることができます。メールマーケティングと似ていますが、同じことができると思っています。

なので、どの年代のどんな人にはどんな表現がもっとも読みやすいのか、今年一番この世代のユーザーに響いた表現はどういうものなのか、というのが分かるようになるんです。

今はそもそもデータを取る手段が少ないので、こういったデータはどんどん作者に還元していこうと思っています。

ーーなるほど、チャットフィクションで蓄積したデータがエンタメの未来を変えるかもしれないということですね。

何気ない日常もストーリーになる

ーーちなみに、久保田さんが好きな作品って何なんですか?

仕事の頭半分で観たり読んだりするようになったので、難しい質問ですね。

僕は現実逃避や自分にないものを求めて観ることが多いので、家族の絆を描いたような作品や純愛ものは好きですね。

あとはコンゲーム(騙し合い)的な作品もよく読みます。ポジティブでもネガティブでも人の感情の機微が描かれているものが好きです。

ーーコンテンツって「思い出」ですよね。エンタメをやる人たちには、その理由がある方が多い気がします。

そうですね。その点で言うと、Balloonでもユーザー投稿の機能があるのですが、たくさんの作品が投稿されています。

投稿されている作品を見ると、プロフィール欄に「中学生の女子です。学校の先生のことが好きです。」と書かれていて、投稿している作品も先生との恋愛ものだったりすることが結構あるんですよね。

他にも彼氏とのデートの思い出や普段の会話を作品にしているユーザーも多いですね。

妄想でも実体験でも、赤裸々に表現するのは昔の携帯小説ブームの時は今ほど多くはなかったと思います。MixChannelやSNSのカップルアカウント等の文化がそうです。

YoutubeやInstagramのような「ノンフィクション」ではなく、「作品」として投稿することによって「フィクション」になるので、逆に心理的な抵抗は減るのかもしれません。

作品を創作するということは、その人の強いエネルギーを消費して作り出していて、自分を削って書いてるんですよね。

そのくらい強いエネルギーを産むモチベーションには何かしら理由があると思います。

ーー確かにそうですね。久保田さんとしては、そういう作品が多く生まれるようになってほしいのでしょうか?

より多く生まれるようになってほしいし、より多く生まれやすい環境ができればいいなと思っています。

その生み出した作品が読む人に最適化されていけば、その作品を好む人も増えると思います。そうすることで作者は削ったエネルギーを補うように満たされていきます。

そういったユーザーのサイクルをより良くできれば結果的に良い作品(ここでは多く読まれ、満足度の高い作品=良いとする)も増えると思います。

ただ、「作者」と言っても、Balloonのユーザーは女子高生を中心とした若年層の女性が大半です。「何気ない日常もストーリーになる」ということをプロダクトを通して伝えていきたいですね。

最近ではTwitter原作のIP作品も増えてきていて、今後も商業作家ではない人が作品をつくっていく流れは強まっていくと思います。

これは、クラウドファンディングや投げ銭文化の普及も大きな要因だと思います。

Balloonからも早く様々なメディアに展開できる作品が生まれるといいなと思っています。

ーー最後に、今後の会社やサービスの方向性を教えてください。

会社としては、エンタメコンテンツをつくり続けていきたいと思っています。この部分はずっと変わらないです。

ゲームやアニメーションなど領域を広げていく予定ですが、先ほどお話したような未来を実現するために、作者への還元をはじめ個人にエンパワーメントする流れを進めていきたいです。

ーー素敵なお話、ありがとうございました!

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